精神科などで良く「うつ状態」という言葉が使われますが、これは、うつ病という病名を指す言葉ではなく、あくまでその症状の状態像を指す言葉です。
うつ病かもしれないし、統合失調症で抑うつが出ているかもしれないし、そもそも病気ではないかもしれない、なにかわからないが、抑うつ気分等が出ていることは判断できる、といった時に使われます。
本当のうつ病とは何か?
うつ状態は、うつ病以外にも、内科の病気の時、脳に器質的な障害がある時、薬やアルコールなどの精神に影響の出る物質をとっている時にも起こり得ます。
また、うつ病以外の他の精神疾患(社会不安障害、パニック障害、強迫性障害、適応障害、摂食障害、身体表現性障害、統合失調症など)がある時なども、その1つの症状としてうつ状態になることもあります。
病名 | 症状等 |
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社会不安障害 | ある特定の場面に不安や恐怖を感じる |
パニック障害 | 動悸や発汗、めまいなどの発作が突発的に現れる |
強迫性障害 | 頻繁な手洗いなど、非合理な反復行為を行う |
適応障害 | おかれている環境に強いストレスを感じ、不適応をしめす |
摂食障害 | 異常な過食をして自ら嘔吐したり、逆に絶食をする |
身体表現性障害 | 内科的には問題がないが、吐き気などの身体症状を呈する |
統合失調症 | 幻覚や妄想などの症状や、感情の鈍さや自発性の低下などが現れる |
しかしそれらが除外されてもなお、それぞれの診断基準(古典的分類、DSM、ICD)により、うつ病の定義は異なるため、ひとくちにうつ病といっても、内因性うつ病と大うつ病性障害は厳密には違います。
DSMでは、診断基準がその症状の質的な違いではなく、いくつ以上あるかといった考え方のため、心理的理由によるうつ病でも当てはまるからです。
このことはとても大切で、いわゆる本当のうつ病は、元来、内因性うつ病を指してきました。
内因性うつ病は、薬が効きやすいですが、性格や心理的葛藤が中心的なうつには薬が効きにくい傾向があります。それぞれのうつの種類によって、抗うつ薬が根本的な治療になるのか、カウンセリングなどの心理療法が有効になるのかなど、対応や治療の仕方が変わってくるという事です。
いつまでたっても改善しないうつは、難治性のうつ病である場合を除き、もしかしたらうつ病ではなく、別の病気の可能性もあるかもしれません。
うつ病は遺伝?それとも幼少期の環境?
親や兄弟にうつ病の者がいた場合、そうでない人に比べ、1.5倍~3倍程度、うつ病を発症しやすいと言われています。
特に、一卵性双生児の一方がうつ病であった場合、もう一方は67%もの高い確率で、うつ病になるとのデータがあります。
この数字は、それぞれ別の環境で育った場合でも、だいたい同程度の数字になることから、うつ病に遺伝的要素が関与していることは、間違いないと思われます。
遺伝子が酵素の働き具合を決める
うつ病の発症には、神経伝達物質と言われる感情を生み出す物質が大きく関与していますが、この物質の量には、人それぞれ違いがあります。
その理由の1つが、酵素の働き具合です。酵素はビタミン等の力をかりて、この神経伝達物質を作り出していますが、酵素の働き具合についても、それぞれの遺伝子により違いがあります。
つまり、遺伝子の違いが、神経伝達物質の量を左右する1つの要因になっているというわけです。
うつ病と幼少期の環境の関係
うつ病の原因として、脳の海馬と言われる部位の萎縮によると言う説があります。
幼少期の心的外傷体験のあるうつ病患者と、そうでないうつ病患者の海馬体積を調べたところ、心的外傷体験があるうつ病患者の、左側海馬体積が優位に減少していることがわかり、うつ病になりやすい素因に、幼少期の心的外傷が影響していると考えられています。
これは、幼少期に心的外傷を持つ者は、脳の神経新生を促すために必要な、神経栄養因子といわれるものが低いためとされています。
また、最近では、脳の慢性的な炎症がうつ病の原因とも言われており、この脳の炎症も、幼少期の心的外傷を受けた人ほど起きやすいと言われます。
さらに、子供時代にストレスフルな環境で育つと、ストレスを受けた時に反応する扁桃体という脳の部位が、通常の人より大きくなる傾向があり、ストレスに対して、扁桃体が過剰に反応しすぎてしまうと考えられています。
うつ病の人はどのぐらいいるのか?
アメリカ精神医学会のデータによると、一生の内に重症のうつ病を発症する人は、女性で5人に1人、男性で10人に1人と言われています。
日本では、平成14年から平成15年の間に行った調査(川上憲人博士)で、過去1年間にうつ病を経験した人は、380万人以上いるとのデータがあります。
さまざまな調査結果がありますが、総合するとうつ病は、男性より女性の方が2倍以上なりやすく、一生の内に一度でもうつ病になる確率は、だいたい7人~15人に1人ぐらいと言えます。
上記の川上憲人らが行った報告では、その受診率の調査も行っていますが、精神科医の診察を受けた人は14%、一般医の診察を受けた者は9%、心理職に相談した人は14%であり、およそ7割の人は、未治療であったと言います。
これはうつ病を罹患した人の内、280万人もの人が治療を受けなかったことを意味します。この中には、そのまま自殺をした人もいることと思います。
まとめ
遺伝は生まれつきのものですので、どうしようもありません。また、幼少期の環境についても、今となっては変えようがありません。
それらが、うつ病の発症に少なからず関与しているということは事実ですが、他にも、性格的な要因、現在の環境、栄養面、認知の捉え方、など、さまざまなことが複合的に関与し合って、うつ病は発症します。
抗うつ剤には、死んでしまった神経の新生を促す効果があるものもありますし、大きくなり過ぎた偏桃体を鎮めるための方法もあります。
今できることを確実に行うことが、うつ病発症の予防や回復に役立つと言えます。