ふつうの「ゆううつ」とどう違うの? うつ病の精神症状。
病気ではない人でも、ゆううつな気分になることは良くありますね。ただ、ふつうはストレスとなった原因がなくなれば、しだいに気分も回復していきます。
例えば、人が感じるストレスの大きさを調査した研究があるのですが、その1位は、「配偶者の死」です。
そのような大きなストレスがあると、ゆううつで顔つきも暗くなりますが、時間とともにだんだんと気分は回復しますよね。
このように人は、心の不調も自分で治す力を持っているのです。
しかし、いつまでも気分が良くならず、他にも色々な症状が出てくると、それはうつ病の初期症状の可能性があります。
抑うつ感
抑うつ感(よくうつかん)は、気分がゆううつで悲しい、なんとなく寂しい、霧がかかったように気分が晴れない、わけもなく泣けてくる、などの状態をさします。
心の中は、暗くて出口の見えないトンネルの中に、一人ポツンといるような感じです。
うつ病の中心的な症状ですが、人によっては、抑うつ感よりも、意欲低下の方が強かったり、抑うつ感のかわりに、体の不調が出ているといったタイプもあります。
不安感や焦燥感
不安な気持ちは、病気でなくとも感じますが、うつ病になると、ふだんは気にならなようなささいな事も不安になったり、理由もなく突然の不安感におそわれたりします。
また、焦燥感(しょうそうかん)は、そわそわしてじっとしていられなかったり、体はじっとしていても、心の中がざわざわしてあせって落ち着かない感じをいいます。
他人から見れば気づかないような、自分の心だけの焦燥から、歩き回る、頻繁に手をこする、貧乏ゆすりがひどい、などの他人から見ても気づくような焦燥までさまざまです。
また、このような時は、いつもより怒りっぽくてイライラしやすい傾向にあります。
興味や意欲の低下
今まで好きだったことにも興味をしめさず、何をするのもおっくうになります。
仕事や家事など、しなくてはならないことは何とかできていても、しだいにお風呂に入る回数が減ったり、身だしなみを整えるのが面倒になります。
それどころか、トイレに行くのですら面倒で、かなりの気力を消耗するようになります。
人間の三大欲求といわれる性欲も低下し、何もする気になれず、一日中、横になっているような感じです。
思考力や集中力の低下
朝起きてすぐの状態を思い起こしてみると、少し似ているかもしれません。まだ頭が起きておらず、ぼーっとして頭の回転が鈍い状態です。
人と会話をしていても、話が入っていかず理解できません。本を読んでいても、文字を目で追っているだけで、内容が把握できないばかりか、同じ行を何度も読んだり、集中力や注意力もさんまんになります。
頭の回転だけでなく、脳から送られる体への指令も悪くなるため動作も鈍くなり、いつもより時間がかかったり、仕事でミスが多くなってしまいます。
このような混乱した思考では、じっくりと考えることができないので、何かを決めないといけないような場面では、より短絡的な決断をしたり、そもそも何かを決めるという行為自体ができなくなります。
自責感や希死念慮
うまくいかないことがあると、ちょっとしたことでも「すべて自分のせいだ」と、自らをおいつめて、自分を責める感情を、自責感といいます。
それらがエスカレートしていくと、しだいに「生きていても何の役にも立たない」「死んでしまいたい」などと感じる、希死念慮(きしねんりょ)という症状が出ることもあります。
症状が進むと、実際に自殺を実行するという自殺企図(じさつきと)がおこることもあります。
自殺企図は、うつ病の症状が重度で寝たきりといった状況よりも、少し良くなってきて動くことができるようになった時の方が起きやすいです。
希死念慮は、積極的に自ら自殺を強く願うものから、「地球に隕石が落ちてすべてが消えればいい」となんとなく思う、などの受動的なものまでいろいろありますが、いずれもうつ病特有の認知のゆがみにより起こります。
うつ病で現れる妄想
妄想は、統合失調症などでよく見られる症状ですが、うつ病でも時々、妄想が出ます。
統合失調症の妄想は、被害妄想などが多いですが、うつの場合には、主に次のような妄想が出ることがあります。
- 罪業妄想
ささいな出来事なのに、重大な罪を犯したと思いこむ - 心気妄想
重い病気だと思いこみ、検査をしても納得しない - 貧困妄想
お金があっても、お金がなくてやっていけないと思いこむ
体のセンターラインにあらわれやすい、うつ病の身体症状。
うつ病では、精神的な症状に先行して、体の不調が現れることもよくあるため、ご本人はうつ病とは思わずに、内科や整形外科を受診されることがあります。
検査をしても内科的には異常がないため、数件の病院の末に、ようやくメンタル科にたどり着く方もいます。
この場合、多少時間はかかりますが、内科や脳外科的には異常が無いということを判断できたという意味では、けして遠回りではないともいえます。
これらの体の症状は、うつ病のなり始めだけでなく、その後の経過の中でもよく見られ、こころの症状よりも辛いと訴える方もいます。
睡眠障害
寝つきが悪かったり、ようやく眠れたと思っても、明け方の早くに目が覚めてしまうなど、しっかりと熟睡することができなくなります。
一般的には不眠が多いですが、人によっては過眠になることもあります。
いずれにせよ、睡眠の質は大きく下がり、うつ病の9割前後の人に認められる症状です。
- 入眠障害
ふとんに入っても1時間以上ねれずに苦痛。 - 中途覚醒
眠っても夜の時間帯に、途中で目が覚めてしまう。 - 早朝覚醒
いつもおきる時間より、2時間以上早く目が覚めてしまう。 - 熟眠障害
睡眠時間は十分でも、質が悪いため熟睡感がない。
倦怠感
倦怠感(けんたいかん)とは、体がだるい状態のことをさします。うつ病により、熟睡できないため、体の疲れがとれずに、常にだるく、疲労感も強まります。
ただ、これは単に睡眠がとれなかったことだけが原因ではなく、うつ病特有の症状とも言え、お風呂に入る、着替える、洗い物をする、などの簡単なことですら、とても疲れてしまうようになります。
座っているだけでも疲れてしまい、とにかくゴロンと横になりたくなります。
食欲低下や胃腸障害
うつ病になると、何かを食べるという行為そのものが面倒になりますが、そもそも食欲自体がわきません。無理して食べてみても、味があまりしなくなったと感じ、「おいしい」という感覚を感じることができません。
また、実際に嘔吐することは稀ですが、胃がムカムカして常に吐き気がしたり、下痢や便秘になったりすることもあります。
一般的には拒食になりますが、うつのタイプによっては、過食になる方もいます。
めまいや耳鳴り
めまいの種類 | 症状 | 良くみられる病気 |
---|---|---|
回転性 | グルグルと目が回るような感じ | 耳や脳の病気など |
浮遊性 | フワフワとゆれているような感じ | 脳の病気やうつ病など |
失神性 | 立ちくらみや血の気が引く感じ | 不整脈など全身性の病気 |
頭痛や体の痛み
その他の不調
これまでにあげた症状以外にも、動悸、息苦しさ、口がかわく、目がかわく、微熱、汗をかく、勃起不全、生理不順などの症状が出ることがあります。
また、のどが詰まったような感じや、のどを締め付けられるような感じ、のどに何か「できもの」ができたような感じがする場合があり、これらは「咽喉頭異常感症(いんこうとういじょうかんしょう)」、「ヒステリー球」、「梅核気(ばいかくき)」などと呼ばれます。
実際に何かが詰まっているわけではないのですが、うつ病や、ストレス等が原因で、のどが過敏な状態になり不快感を感じるという状態です。
まとめ
いかがでしたか。うつ病と言うと、落ち込んだ気分などを思い浮かべるものですが、実は妄想が出たり、人によっては体の不調しか出ないという場合もあります。
今まで、吐き気止めや痛み止めを飲んでも全く治らなかったのが、抗うつ剤によるうつ病の治療により、症状が治まるという場合もあります。
このように、うつ病といっても人により現れる症状はいろいろなので、まずは自分にどのような症状が、どの程度あるのかを知ることが大切です。